*[経営幹部への手紙](31)改善の出発点は整理・整頓
食品と科学社(電話03-(3291)-2081FAX03(3233)0478)の月刊食品と科学に連載中の
(9)月号掲載、エグゼクティブ(経営幹部)への手紙(31) の内容をご紹介します。
◆エグゼクティブ(経営幹部)への手紙(31)改善の出発点は「整理」「整頓」
「県庁の星」というテレビドラマを見ました。登場人物が、技術系大学を出て食品企業に就職し、現場に配属された“学卒さん”とダブりましたので、原本 も読みました。
ドラマの主人公は
ドラマの主人公「野村 聡」31歳はY県の上級職試験をパスしたエリート公務員、産業労働部産業振興課産業支援班の班長として地域開発事業チームのリーダー役を務めるエリート。
一年間民間企業で働き民間企業独自の経営手腕や工夫を学び、県民行政に役立てる人事交流計画の第一期生に選ばれ、県内地方都市にある食品スーパーに派遣され、職場文化の違いに戸惑い、スーパーの現場従業員たちとも衝突します。しかし、その交流の中から、自分のあり方にも誤りのあることを悟り、一年発起し、一作業員として職場チームに溶け込み、仕事を習い、新商品開発に挑戦し、整理・整頓、在庫管理などの改善を進め、担当チームの業績も上げ、最後には全従業員に受け入れられるというストーリーでした。
スーパーへの出社初日、彼が見たものは、在庫品の段ボールが店長室までも積み上げられ、身動きもままならないという状態でした。
本部から配送された商品が売れず、在庫品になっているのでした。
彼は「県庁さん」と呼ばれ、スーパー側は持て余し気味でした。研修担当は十歳ほど年上のパートの女性二宮泰子。この女性、勤務歴は長く、しっかり者で裏店長とも呼ばれ、売り場の女性たちを仕切っていました。
しっかり者パートさんの力
しっかり者のパートに機会と役割を与えたら、現場をリードし、改善が進んだ例を、以前体験しました。チームリーダーとして食品工場の改善活動に参加した際、銀行での勤務歴を持つしっかり者のパートの女性が現場にいることを知り、HACCP委員会のメンバーになってもらいました。予想に違わず、委員会での発言や提案は的確でした、メンバーも信頼を寄せるようになり、品質管理室の技術者と組んで衛生自己点検も行い、改善を具体的に進めました。
食品安全ネットワークの研修会で「現場の女性従業員は古株のパート女性に牛耳られているので、改善を進める場合は、まずこの女性の同意と共感を得ることが必要なんです。」と、いった話を若い品質管理室勤務の人から聞くこともありました。
職場文化の違い
ドラマで野村は‘県庁さん’と呼ばれていました、彼は仕事のデータ化や標準化が得意で、「書類」と「数字」で、仕事を進めようとし、まず、研修担当の二宮泰子と衝突します。
二宮は野村に「仕事や接客のマニュアルなんてない。実際に体験して、考えて、自分なりの一番いい方法を見つけりゃいいの、マニュアルなんてうちの店には無いの。」
「組織図?この店に入って十五年になるけど、そんなもの見たことない、もしかしたらないのかも」「そんなものなくたって、回っていくから、民間は!」と反撃します。
レジの実習に回された野村は、「使用不可」の表示が出た客とトラブルになりかけた時に二宮が割って入って解決。
「習っていなかったので」という野村の言い訳に、「誰も習ってなんかいないよ、これを言ったら、こうゆう言い方したら、客はどう感じますかって、こと、わかんない?」「商売は習うもんじゃなくて、客の気持を察することなの。県庁さんには素質がない。人を喜ばせたいとか、楽しませたいと思ったことないでしょ。県庁さんが新入社員だったら即クビ」と厳しく言われてしまいました。
バックヤードの厨房でも
次の研修場所として配属された弁当総菜の厨房では、ごみ缶に腰をかけて煙草を吸う人、コロッケの材料に使うジャガイモは芽だらけ、売れ残りのコロッケを、水をくぐらせて、さっと油で揚げて陳列に並べているので、「そうゆうことは、いけないのでは、と言うと」「リサイクル、もったいないでしょ」と答えが返ってくる。材料の消費期限などは黙殺、といった状態に腹を立てた野村は、不正の是正を求める意見書と職場別マニュアルを徹夜で作りあげ、二宮と店次長に提出しました。
意見書をめぐって
店次長は、読むことをためらい、二宮は、「あなたが書いていることは正しい、しかし、あなたは人間を見ていない、指示するだけでなく、共に汗を流さないと人はついてこない」と指摘。
一階食料品売り場長の浅野は、厨房チームを、ブランド弁当を作るAチームと、従来の弁当を作るBチームとに分け、Aチームのリーダーに野村を指名しました。
Bチームは、Aチームと競争することで結束、能率も業績も上げました。
しかし、野村が構想したAチームのやや高級な弁当は売れず、調理スタッフの心も離れはじめました。見かねた二宮は、「Aチームに必要なのは市場調査」と野村を百貨店の地下食料品売り場へ誘い、女性客がどのような心理で、どのように行動するかを実際に見せ、「書類のデータばかり見ないで、人間の行動を見、その人の心理や背景を想像しなさい。」「スーパーが開発する弁当は「特別な日と日常の中間を狙え!」と助言しました。
厳しいが、優しさのこもった助言に野村も開眼し、Aチーム調理場の一員として働きたいと謙虚に頭を下げ、受け入れられました。
更に、鮮魚加工所や売り場にも修行に行ったことで、他の職場の人たちも心を開き、入荷した食材それぞれに伝票を2枚作成し、1枚は食材に、1枚は機械へ入力して管理する方式も行われるようになりました。
そんな折、消防署と保健所からの査察が同時にあり、指示内容は、本日の指摘事項について改善計画書を速やかに提出すること、次回査察時に改善がなされていなければ営業停止もありうると厳しいものでした。
もし、営業停止の処分を受ければ本部から店自体がリストラされる恐れがあり、全従業員が心配していることでした。
野村は、二宮の指示や助言も受けながら廊下や、非常口の外階段にまで積み上げられている段ボール箱の整理、ストックルームの中の整理、荷物置き場所と通路の区分や消火栓前の空間確保部分を色テープで区分する作業などを黙々と行いました。
消防署への報告書作成から、現場の整理整頓に至る野村の努力が実り、2回目の立ち入り検査は合格でした。
市場調査を基に開発した弁当総菜などの新商品は日を追って売り上げを伸ばし、波及効果は全店に及び20%の売上増となりました。
売上増を祝う朝礼では、「県庁さん」コールが起き、台に上がって挨拶することにもなりました。
県庁に帰った野村は、上司の質問に答え、「民間研修で得たものは、間違ったらすなおにあやまること、一人では何もできない、チームの協力が要ること。」と答えていました。
食品企業現場の学卒さんは
このドラマや原本には、管理者や従業員の本音と、生々しい現場の現実が語られています。
現場従事者が、見る“学卒”さんは「研修期間に仕事の手ほどきをしたのだが、どうも不器用で、作業は好きでないみたい。しかも、理屈が多く、二言目には、か『記録は』『データは・・』と言い、人間である自分達を見てくれない」と厳しいものがあります。
学卒さんでもある「若い品管」の方たちからよく耳にしたことは、「現場の古参従業員が言うことを聞いてくれないので、ラインの長に頼んでいます、ラインの長がとにかく頼みの綱です」ということでした。
全員を結束させる整理整頓
ドラマに、戻ってみましょう、県庁さんの野村が汗を流し、本格的に取り組んだのが、整理整頓、在庫管理でした。
時に現場チームの協力を得ながら、しかし、ほとんどを一人で黙々と働き、全員が目に見える改善「整理整頓」を成し遂げたことで、野村への空気が変わり、現場から信頼され、尊敬さえされる存在となりました。
実際に、食品工場で進められている食品衛生7Sは、整理・整頓・清掃・洗浄・殺菌をしつけで、推進、維持し、目的である清潔を達成しようとするものです。
このドラマは、そのうちの整理整頓がすべての改善の出発点であり、基礎でもあることを示しているように思えます。
ドラマが教えていること
課題を乗り越えるごとに自らを変え、成長していくこと、自らを客観的に眺める余裕をもち、素直に教えを受けることがコミュニケーションを自然に広げることになっていることを教えているように思います。
もし、学卒さんたちが、エリート意識のまま、検査室などに引きこもり、データ集めや書類づくりばかりしていたとしたら、現場の改善は進まず、クレーム処理に追われる結果となるでしょう。
「現場に溶け込み、連帯して活動する」と、言葉で言うのは易しいのですが、日々実行を重ね、信頼と時には楽しみも共有し合う連帯を現場で構築するためには、学卒さん自身の、たゆまぬ努力が必要であることを、経営幹部の皆さんが教え、見守る、必要があるように思いました。
◆なお、食品と科学には、サントリー榛名工場の工場長として活躍され、工場改革を進め「eメールで進める工場改革」(日刊工業新聞社刊)の著書でも知られている水上喜久氏が定年を迎えてコンサルタントとして独立、食品と科学にも「ディズニーランドのような工場にしたい」をテーマに、豊かな体験に裏打ちされた、臨場感ある連載記事を書いておられます。こちらは本誌でぜひご覧ください。私もファンです。きっとお役に立つと思います。(猫西 一也)
◆リンク 食品安全ネットワークHP http://www.fu-san.jp/