*[経営幹部への手紙(i43)見える化シート

kanboku2011-06-17

*[経営幹部への手紙](43)見える化シート

 2010年5月29日大阪市中央区民センターで開催された第44回ISO22000研究会でケイ・イマジン代表今里健一郎氏が「7つの見える化シートで会社を変えよう」と題して講演をされました。
講演に先立ち、米虫節夫食品安全ネットワーク会長が、「現場の改善というものは、改善に至るまでの当事者の苦労は多いのに、“コロンブスの卵”のようなもので、改善が実現してみれば、人からは、『なんだ、こんなことか!』と思われてしまうものである。」と、豊富な経験から生まれた至言が述べられました。
講師のご紹介では、会長が「関西電力の品質管理部門の指導に当られていた時、同部門を担当しておられ、同社を退職された後に執筆された7冊目の著書『仕事に役立つ七つの見える化シート』   を読んでみたら、絵入りで分かりやすくしかも充実した内容なので、講演を依頼した。」と紹介されました。
 講師は、大学の工学部電気工学科で学び、関西電力へ入社、電気部門を担当したのちTQC推進グループを担当する品質管理部門へ、その後料理器具の販売、発電所の排水が水産物に与える影響などの調査を担当、全国の水産研究所をくまなく回り、関西電力能力開発センターの主席講師を務めたのち同社を退職、現在はケイ・イマジンの代表としてコンサルタント活動を行っておられます。
講演は前記の著書から抽出された骨子をテキストに講演が行われました。

改善って「義務」それとも「権利?」

会社が方針として打ち出した改善活動を進めるのは社員としての義務である。しかし、改善活動を推進してもなかなか成果を実感できないのが現実である。ならば、日ごろ自分達が「しにくいと思っていること」を改善テーマとして採用してもらい、活動を進めてみてはどうだろうか、失敗しても、「もう一度PDCAを回してみてはどうか」と激励してくれるはずである。

三脚で自立しよう

 「企業は違う三つの部門を持て!」とも言われている。三脚のように三つの脚で立つと、でこぼこした地盤でも安定して立つことができる。 
 例えば、計量機メーカーの株式会社イシダは、近江商人の家訓とされてきた売り手よし、買い手よし、世間よしを基本に社員満足、顧客満足、社会満足の三つを柱に経営を進めている。
社会から満足を得るためにはヒューマンエラー防止、コンプライアンスなど規定を厳守して事故を未然に防止することや過去の事故例を基に再発防止策を講じることが必要。いずれも小手先の対症療法ではだめで、仕事のプロセスから変える未然防止・再発防止策でなくてはならない。
 社員の満足を得るためには、社員を重視し、その安全を守り、安心を得ることが必要になる。その上で、技術伝承や活性化を推進し社員に仕事に対する自信を持ってもらう。
 顧客満足はお客様のニーズに応えること、お客が満足する価値を創造することで、良い品物を低価格で提供することになる。
 イシダは、形も重さもそれぞれ違うピーマンの定量測定を成功させて顧客の要望に応え、技術革新を通じて社員の意識や自信も高めている。

仕事も人生も三脚で自立しよう。

 仕事では、業務と改善と新しい仕事への挑戦。人生では、自分と仕事と家庭、それぞれに振り分ける力のバランスをとることが大切である。
SDCAとPDCAの二輪をつなぐ
 業務のSDCAと改善のPDCAを回す様子は一輪車に似ている、それぞれが独立していれば常に不安定である。この二つの一輪車を問題というペダルと標準化というサドルで繋ぐと二輪の自転車になり安定して走れる。ハンドルを管理者が持つことで方向性も決まる。図 1業務・改善2輪自転車(七つの見える化シート10頁から引用)
 前輪の業務SDCAを回す中で年度末チェックやISO監査結果などで気づいた問題があれば、ペダルを通して後輪へ送る。
後輪ではQCサークルや改善チームが改善PDCAを回し、改善案は職場になじむように標準化し、サドルを通して前輪に送る。
前輪の業務SDCAで改善案を規定化、マニュアル化する。
このように、業務と改善の活動を二輪化して取り組むと、価値のある結果を生むことになる。
 もし、この二輪車に乗れない人がいれば、教育という補助輪をつけてみる。
改善は仕事に始まり仕事で終わる
改善は、日常の業務活動なかで困っていること、トラブル、不具合や不良品など仕事を進めていく上での問題を取り上げる。

ステップ1.テーマの選定

 現場に発生している問題からテーマを決める。大所高所から見る鳥の目で見る、問題をマトリックス図に落として考える。

ステップ2.現状の把握

 パレート図やグラフを使い問題の実態を把握し、そこから重要な問題を抽出する。

ステップ3.目標の設定

グラフも使い、どこまで問題を解決するか、目標値を決定する。

ステップ4.要因の解析

 現場、現物から離れず、現実的な目で特性要因図やヒストグラムなどを使い要因の洗い出し、データの解析から特定した真の原因を“見える化”する。

ステップ5.対策の検討と実施

 知恵を出し合い、原因を取り除く対策を立案し、対策系統図にまとめる。

ステップ6.効果の確認と標準化

 パレート図などを使い、効果があったか確認し、良い対策は継続するために標準化し、作業マニュアル、機械の調整、教育訓練、工具の使用法など仕事のやり方の中に溶け込ませる。

自分が動けば影も動く

 ディズニーランドでは、ゴミが落ちていたらスタッフの誰もが即拾いごみパックへ捨てる、それが職場文化になっていて、新人もマネージャーや先輩の“ゴミ拾い”を見習いごく自然にゴミを拾うようになると言われている。
 職場でトラブルが発生した時、まず課長自らが特性要因図を作って自分なりの原因特定を行い、職場のスタッフに配って意見を求めてみてはどうであろうか、スタッフからさまざまな意見が出てきたらしめたもの、「明日皆でディスカッションしよう」と提案するとそれぞれが現場調査も行い、考えをまとめて参加するはずである。

管理者の積極的な参加が活動を支える

 改善活動はコーチングで進める。こーチングは相手を支援する立場に立つので相手と協調的な関係が生まれる、ティーチングは助ける立場に立つので、相手とは従属的な関係になる。基礎的な知識を付与するときはティーチングでよいが、基礎教育や実習を終え、担当した仕事もこなすようになってきた人たちには、問題を提示し、「どう思う?」と問いかけをし、答えを導き出す手法をとる。
 三人三様の答えが出たら協議に加わり皆で答えを出す。
やる気を起こし、少し無理かなと思う問題も解決の糸口を見つけ出すことになる。

メンバーと管理者による改善活動の進め方

 改善は、テーマの選定→現状把握→目標決定→要因の解析→対策の立案→対策実行→効果の確認→標準化と今後の課題を決める。といった手順で進められる。
管理者は、テーマの選定過程で方針との関連から助言を行う。要因を解析し、対策を立案する過程では、対策を実施することが可能か、予算の裏付けがあるかなどを検討し、可能であると見極めがつけば、対策の実施を承認し、実施するうえで必要な支援をする。
 効果の確認過程では、業務成果の評価と副作用がないかチェックし、実用化に向けた支援を行う。
 改善活動に対する管理者の姿勢は近づかず、離れず見守ることである。
改善活動に参加した当事者は、最初のうちは負担感を感じる、しかし、とことんやれば達成感に変わる。このことを教え、体感させることである。
見える化とは?
 問題の発生している現場へ行き、足で歩き、目で事実をつかみ、得たデータ(言語、数字など)を、ツールを使って加工して図にまとめる。つまり図に化けさせて、客観的に見える情報にすることである。このことで、関係者に共通の認識が得られ、改善への協力も得られるようになる。

QC手法と見えてくる情報

 QC七つ道具   を使うと現場の問題を“見える化”することができる。
10円玉は丸いのか?
 「10円は“まるい”か?と質問すると、即座に「丸いさ」と断定する人々、「丸くないの?」と疑問に感じる人々、十円玉を取り出し確認する人々と、三つのグループに分かれる、ただし、確認するグループの人数は少ない、しかし、横から眺めた人などから「長方形だ!」と「まるい」以外の答えが出てくる。
断定グループは、頭で考え即答している、正解ではあるが、このグループからは慢性化した問題を打破する発想は出てこない。
確認グループは、頭は丸いと信じながら、しかし、「丸いか?」と問われたのだから自分で現物を確認している。このグループの人たちは問題解決に役立つ何かを気付いてくれるはずである。

危ない改善

 「省力化」を錦の御旗に、理屈抜きで施設や設備に手を加えると危険なことになる。改善の対象にした施設・設備が何の目的で設置されたのかを念頭に置き、その機能を損なわないことを前提にしないと、改悪になり、危険な事態を招くことになる。
改善は「気づき、考え、行動する」で行う。
1. 問題(変化)に「気づく」こと
2. 問題の原因を「考える」こと
3. 真の原因に対する対策を「行動する」こと
この三つのステップで進めると良い結果が生まれる。
 人が問題に「気付いた」時、その人の固有技術である過去の知識・経験が働き、問題に対する対策が思い浮かんでくる、これを基に対策を立て、実施しても、今までと変わらないことになる。
 この“思い浮かび”は捨て、面倒でも、 管理技術を使って問題をグラフ化、図化し、問題の層別やデータの解析なども行って原因を「考え」さらに「現場」「現物」「現実」の三現主義を基に原因を「考え」対策を「行動」する。
 おやっ?と問題に気付いた時は、仮説を立て、これを検証しながら最適策を考えることである。

客の満足は

 客は、商品に支出した金以上の満足を感じた時満足感を感じるものである。お客様が求めている期待に応えていくことが、お客様満足度向上につながる。
アンケートにより重点改善項目を抽出する。アンケートは次の手順で作成する。
手順1.目的を決める
手順2.仮説を立てる
手順3.アンケート用紙を作成する
手順4.調査とデータの収集
 仮説は、品質の安定、不良品の発生、仕様への対応などの品質面。適正な価格か、コストダウンへの期待などの価格面。通常納期の厳守、緊急発注への対応などの納期面。クレーム対応、電話応対、アフターサービスなどのサービス面。といった視点からそれぞれに満足しているかを尋ねる、この総合的な満足度を知ることで、取引や利用を継続するリピーター度を察知することができる。
さらに、不良発生時の対応、問題再発防止への取り組み、お客様の声伝達度などの視点からも尋ねる、この答えから品質保証満足度を察知することができる。
 アンケート用紙の作成は、手順2を基にした仮説構造図から作成する。
 アンケート調査の実施結果はExcelシートに入力し集計する。
手順5.アンケート解析
解析1.グラフで全体の姿がわかる。
解析2.クロス集計で着眼点がわかる。
解析3.相関分析で質問間の関係がわかる。
解析4.重回帰分析で目的と要因の関係度合いがわかる。(アンケート設計の評価ができる)
解析5.ポートフォリオ分析で重点改善項目がわかる。
解析6.親和図でニーズを把握する。
(詳細は「Excelで手軽にできるアンケート解説」  に記載されています。)
手順6.「改善課題見える化シート」を作成し、A3版1枚のシートにまとめる。

「おや!」と思うところに宝が眠っている

 あるコンビニのPOSデータから木曜日の朝の時間帯に弁当が売れる現象が現れた、弁当を買うお客様に聞いてみると、「会社の食堂の都合で木曜日が定休日になったので・・」と原因が分かり、仕入れ量を上げて対応した。
 日頃からデータをグラフ化して問題を“見える化”することが大切。事務現場では処理ミスを折れ線グラフに、製造現場では不良品数をパレート図に、営業現場では苦情の原因を特性要因図に書いてみる。
「1」 プラス「1」は「3」
 携帯パソコン専用のマウスには、電卓機能が、更にテンキーとしても使えるようになっていて、便利に使える。1プラス1を3、更には4にする発想である。
目的に見合ったいろいろな改善アプローチ
 事例も交え、次の七つの見える化シートを使った改善アプローチが紹介された。
1. 問題解決見える化シート
2. 手軽改善見える化シート
3. お客様満足見える化シート
4. プロセス改善見える化シート
5. 作業効率見える化シート
6. 設計・開発見える化シート
7. 課題達成見える化シート
 七つのうち内容が簡単な2.の「手軽改善見える化シートを紹介します。図 2手軽改善見える化シート(今里健一郎著「仕事に役立つ七つの見える化シート」56〜57頁図から引用)
 問題に「気付き、考え、行動する」アプローチの手順、職場で困っていることがある、トラブルが発生した、何かと不具合がある、といった場合、まずはステップ1「問題に気付く」ステップ2「原因を考える」ステップ3「対策を『行動する』」の3ステップで対応してみる。
 「気付く」とは「比較」することである。比較することから問題を発見する。
・目標を持つ→現状を目標と比較してみる。
・過去からの変化をとらえて現状を評価する。比較するには、データを収集し、グラフに表す。
・折れ線グラフ、棒グラフ、円グラフ、レーダーチャートなどを書いてみる。
 「考える」とは、「層別」することである。作業者別、時間別、装置別に層別したグラフを書く。
 問題を層別してパレート図を書くと、そこから重要な問題点を引き出せる。
特性要因図により問題を層別して原因を探す。
 対策を「行動する」ということは、「工夫」することである。例えば、くっ付けてみたら、止めてみたら、真似してみたらと、オズボーンのチェックリストを使って工夫してみる。
詳細は、今里健一郎著「見える化シートで手軽に取り組める改善アプローチ(日本規格協会発刊)をご覧いただきたい。
質疑で講師からいただいた助言
Q:QCにあまり詳しくない人たちが多い現場で、まず、使ってみる本は何でしょうか。
A:「QC七つ道具がよ〜くわかる本」がいいと思います。絵入りで初めての人にも分かりやすく書いてあります。
Q:現場では文章を書くことを苦手にしている人が多いので、せっかくのシートが使いこなせるか不安です。
A:シートに現場の写真を貼り、日時、場所、対象物の名前、状態など1〜2行の説明を入れ、後は口頭で説明するという使い方もできます。

結びの言葉                                                                                     「過去と他人は変えられない、未来と自分は変えられる。」という言葉で、講演を締めくくられました。
 「忙しい、忙しい」が口癖で、改善に取り組まない、取り組めない理由にしておられる人、それを嘆く経営幹部の皆さん、そして、「改善に取り組もうといつも言うのだが、部下は動こうとしない」と嘆く課長さんは少なくありません。
自分がしにくいと思っていることを改善テーマにしてみる。
「問題」に対して、まず課長が特性要因図で原因を特定し、「皆はどう考えるか?」「みなでディスカッションしてみよう」と問いかけ、改善グループを作りあげていく。 
といった講師の提言は、そのような現状を改善する糸口になるのではないでしょうか。

 
御質問や御意見は、下記アドレスへ。
kagaku-syokuhin@memoad.jp

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リンク 

食品と科学へ掲載した記事を転載しました。    
猫西 一也 (食品安全ネットワーク顧問)
◆食品安全ネットワークHP 
    http://www.fu-san.jp/
◆?食品と科学社 岸 直邦
東京都千代田区神田錦町3-6-4-1201
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