*[経営幹部への手紙(34)] 証取得

食品と科学社(電話03-(3291)-2081FAX03(3233)0478)の月刊食品と科学2009年12月号に連載中のエグゼクティ*[営幹部)への手紙]( 34 ) の内容をご紹介します。
◆*[エグゼクティブ(経営幹部)への手紙](34)―認証取得後も変わらないのは何故?



 少し前のことですが「HACCP(マル総)の承認工場なのだが、現場従事者の意識や行動は承認前とあまり変わらない、どうしたものか」と悩みを打ち明けられました。
原因は物マネとコピー
 承認取得までの経過を伺い、「原因は物マネとコピー乱用です」と申し上げ、次のような話をしました。
「旧雪印乳業株式会社(以下会社)大阪工場が製造した加工乳でブドウ球菌食中毒が発生し、大きな社会的事件となったことは記憶に新しいことです。
当時大阪工場の衛生管理の実情は、残念なことに、マル総承認工場でありながら、ずさんでした。報道機関も厳しく批判しました。
会社は、大阪工場も含め、全国二十工場のマル総承認申請書を本社で一括作成し、当時の厚生省に申請していることが事件後の調査で判明しました。
2000年8月、大阪で行われたHACCPチームリーダー養成講座でも、『残念なことだが、会社が提出した二十工場の承認申請書の中身は“金太郎あめ”のようにほぼ同一であった。二十工場の内十工場には、HACCP委員会も組織されていなかった。』と、講師が、過去の“まる総”承認には反省すべき点があったと話されました。
HACCPシステムの出発点であり、工場ごとに実施すべき危害要因分析は、実施されず、審査も現場調査は省略されていました。当然のことながら、現場従事者は管理職も含め傍観者になってしまい、意識改革も生まれなかったと思われます。
少なくとも前記加工乳によるブドウ球菌食中毒事件発生以前は、HACCPの出発点でもある危害要因分析が個々の食品工場で行なわれることは無く、当時厚生省監修の名を付して出版された「HACCP:衛生管理計画作成と実践」等の解説本に記載された危害リストから関連する危害物質を抽出コピーしたもので申請書が作成されていたと推測されます。」と申し上げ、貴方の工場が申請された場合と似た点があるのではないでしょうか?と申し上げると、『やはり原点となる危害要因分析からやり直さないといけないように思います』と答えて帰られました。
HACCP講座米国版
1997年6月に大阪で開催されたテキサス農業工業大学動物科学部デイビー・B・グリフィン准教授等によるHACCPセミナー(Aセミナー)  同じく1997年9月にコーネル大学食品科学科ロバート・グラバニ教授等によるHACCPセミナー(Bセミナー) を受講しました。
セミナーでは、驚いたことに、食品現場にTV記者が潜入し、現場作業員の行動を密かに撮影したものを放映したことで、アメリカ社会に波紋を広げた問題の作品を会場で映写しました。
現場の隠し撮りを見せてからの講義と質疑が始まった時、これは“真剣勝負”だと、会場には緊張感が走り、参加者は、引き込まれるように講義を聴き、問題点や原因についても当事者の立場で考えました。
セミナーでの質疑応答
質疑応答で、参加者から「危害要因分析を行った工場のモデル例を示して欲しい」と要望が出されました、グリフィン助教授は、やや語気を強め、危害要因分析はあなた方の個々の工場で行うべきものであり、個々に行わなければ役に立ちません」と事例を示すことを断わりました。
セミナーでは、講師のグラバニ教授は、まず国際線の機内食による食中毒事例を詳細に説明しました。
 「旅客機は、成田からアンカレジを経てコペンハーゲン、そしてパリに到着。朝食はアンカレジ。朝食のハムを調理したシェフは手に火傷の傷があったのに、素手で200枚以上薄切りハムを作った。このハムは、90度Fの室温で6時間置かれ、その後50度Fのクーラー内に12時間保管され、350度Fで加熱調理したものが搭乗客に提供された。その結果、2時間30分後に192名の客と1名のスタッフが発病、原因はブドウ球菌が産生したエンテロトキシン(腸管毒)であった。これまでの食中毒防止対策は、従事者の教育訓練、チェックリストによる検査・点検、サンプルを抽出して細菌検査をすることで行われている、しかし、これでだけでは防止できない、予防に重点を置き、計画的に原材料から摂食までの全ての段階で予防策を講じる「HACCPシステムで対策を講じる必要がある。」と述べ、図を示して、経営者の合意、危害の認識、教育訓練、更に、食品の温度管理、洗浄と衛生管理、個人衛生、ペストコントロールをきちんと行うことがHACCP実施の前提条件であること」を強調しました。
危害分析と重要管理点原則と応用のガイドライン 
教材として配布されたガイドラインには、「HACCP計画の作成における予備的な作業として、まずHACCPチームを構成する。チームは食品の流通・意図する使用方法と対象となる消費者を記述し、プロセスを説明するフローダイアグラムを作成し、これを検証する。これらの予備的作業を終えた後に、チームは原則1の危害要因分析を行う。徹底したハザードアナリシスが効果的なHACCP計画を作る鍵となる。もし、ハザードアナリシスができていないので、HACCPシステムにおいてコントロールすべきハザードが明確にされなかったならば、計画は、たとえそれがどんなに完全に守られたとしても、効果的なものではないであろう。」と述べた。 
ガイドラインには、ハザードアナリシスを行う際に考慮すべき質問例が付録Cとして添付されていた。
A 原料
1. その食品は、微生物的ハザード(例えばSalmonella,Staphylococcus aurous)化学的ハザード(たとえばアフラトキシン抗生物質やペスティサイド残渣)あるいは物理的ハザード(たとえば石、ガラス、金属)につながる危険なことのある原料を含んでいるだろうか?
2. 使用水、氷そして蒸気がその食品の調製または取扱いの中に使われるであろうか?
3. 原料はどこから来たのか?(例えば、地理的な地域、特有の供給者)
B 固有のファクター
 加工前と後の食品の物理的特徴と組成(例えば、pH、酸性化剤のタイプ、発酵性炭水化物、水分活性、保存料)
1. もしその食品の組成がコントロールされていなかったら、どんなハザードが発生するだろうか?
2. その食品は、加工中に病原菌の生存もしくは増殖もしくは増殖、または毒素の生成を許すであろうか?
3. その食品は、その製造過程の次の段階で病原菌の生存あるいは増殖、または毒素の生成を許すであろうか?
4. 同じような製品が市場に出回っているだろうか?その製品の安全性の成績はどうか?今までどのようなハザードがその製品に関連したことがあるか?
C 加工に使われる方法
1. そのプロセスには病原菌を殺滅する、コントロール可能な加工のステップがあるだろうか? もしあるならばどの病原菌を殺滅できるのか? 栄養細胞と胞子の双方を考慮しなければならない。
2. その製品は、加工(例えば調理、低温殺菌)と包装の間に生物的、化学的あるいは物理的なハザードによる再汚染が起きやすいであろうか?
D 食物中の微生物
1. その食品は(どのような)微生物を(どれだけ)含んでいるか?
2. 喫食に先立って通常の時間保存されている間に微生物の数が変化するであろうか?
3. その微生物数の変化はその食品の安全性に影響を与えるであろうか?
4. 上記質問に対する答えが、ある生物学的ハザードが非常に起り易いことを示しているだろか?
E 工場のデザイン
1. その工場のレイアウトは、もし生の原材料を、そのまま食べる(ready-to‐eat; RET)食品から適切に分離することが食品の安全性にとって大切である場合には、それができているようになっているであろうか?もし適切な分離ができないならば、RTE食品を汚染する恐れのある物質としてどのようなハザードを考慮すべきであろうか?
2. 製品の包装を行う部署の空気は要圧になっているか?これは食品安全性にとって不可欠であろうか?
3. 作業員や移動装置の交通パターンは汚染の明らかな発生場所になってはいないか?
F 装置のデザインと使用法
1. その装置によって、食品の安全性に必要な時間/温度コントロールができるであろうか?
2. その装置は、加工される食物の量に対して適切なサイズであろうか?
3. その装置によって、作動状態の変動が安全な食品を製造するために必要な許容範囲にとどまるように十分なコントロールができるであろうか?
4. その装置は信頼できるものか、または頻繁に故障するものなのかどうか?
5. その装置は容易に清浄化、衛生化ができるようデザインされているか?
6. 危険な物質(例えばガラス)によって製品が汚染される機会があるだろうか?
7. 消費者の安全性を強化するためにどのような製品安全性を守るための機器装置が使われているか? 金属探知器、磁石、フルイ、フイルター、温度計、骨を除く装置、混入物検出器。
8. 装置の通常の磨滅が製品中に起こりうる物理的ハザード(例えば金属)の発生しやすさにどの程度影響があるか?
9. 異なる製品のために同じ装置を使う場合アレルギー源の混入を防止するためのプロトコールが必要か?
G 包装
1. この包装の方法は微生物病原体の増殖や毒素の形成に影響を与えるだろうか?
2. 安全性のために必要な場合には「要冷蔵」と包装に明確に表示されているか?
3. ユーザーによる取扱と調理のための説明が包装に表示されているか?
4. 包装材料は破損されにくく、従って微生物的汚染物質の侵入を阻止できるであろうか?
5. 不法開封が明白にわかる包装様式が使われているか?
6. すべての包装とケースに読み易い、正確な識別記号(コード)がついているか?
7. すべての包装に適切なラベルがついているか?
8. 材料中の、可能性があるアレルギー源となり得る物質がラベルにある材料組成のリストの中に挙げられているか?
H サニテーション
1. サニテーションが加工中の食品の安全性に影響があるか?
2. 施設と装置は食品を安全に取り扱えるように容易に清浄化、衛生化できるであろうか?
3. 食品が安全であることを保証するために、衛生的な状態を一貫して適切に保てるであろうか?
I 従業員の健康、衛生と教育
1. 従業員の健康または個人の衛生管理が加工中の食品の安全性に影響するか?
2. 従業員は、安全な食品の製造を確保するため彼らがコントロールすべきプロセスと要因を理解しているだろうか?
3. 従業員は食品の安全性に影響し得る問題を管理者に報告するだろうか?
J 包装から最終ユーザーに渡るまでの保管状態
1. その食品が不適切な温度で不当に保管される可能性はどのくらいあるか?
2. 不適切な保管方法が食品を微生物的に安全でなくするであろうか?
K 目的とする使用法
1. その食品は消費者によって加熱されるか?
2. 食べ残す可能性が多いか?
H 目的とする消費者
1. その食品は一般公衆向けか?
2. その食品は病気にかかり易い集団(例えば乳児、老齢者、虚弱体質、免疫不全者)によって摂取されることを意図しているのか?
3. その食品は、公共施設で提供されるのか、それとも家庭で使われるのか?」
ハザードの同定は、製造現場のHACCPチームで、(必要な場合は学識経験者の参加を得て)ブレーンストーミングも取り入れ、しっかりと討議して決め、文書化し情報を共有します。
その際、前記の質問に対応する形でハザードの同定を行えば、漏れのない同定が行えます。
ハザードの評価
同定が済めば、次は、評価へ進みます。
ガイドラインでは付録Dにハザードを同定し評価する際のハザードアナリシスの段階の使い方の例が示されました。
日米HACCPセミナーの違い
2000年12月に大阪で行われたHACCPチームリーダー養成講座には、全国から108名が参加し、3日間にわたって行われました。
 “アメリセミナー”の場合は、講師がアメリカの大学教授や日本の国立国際医療センター研究所長、全米食品製造業協会会長であったせいもあるのでしょうが、事例も交え、学術的に危害要因を分析し、なぜHACCP実施が必要なのかの認識、意識改革に重点が置かれていました。
日本の公式HACCPチームリーダー養成講座の場合は、講師が行政担当者、食品工場現場のリーダーで構成されていたため、まる総申請書作成のための実務研修会という印象を持ちました。
この違いが、「マル総の承認を取得したのに従事者の意識は変わらない」という嘆きにつながっているのではないでしょうか。
製造過程の高度化について
平成10年7月1日付厚生省・農林水産省告示第1号として告示された食品の製造過程の管理高度化に関する基本方針の第4次改正の内容が平成21年8月25日に告示されました。
告示は、高度化基準の作成についての基本的事項として、平成10年に制定された「食品の製造過程の高度化に関する臨時措置法の第4条で定められた高度化基準は、事業者の自主的な取り組みを基本に製造過程の実態に応じて作成されるべきものであり、製造過程高度化について専門的な知識を有する者を交え、十分な検討を行う必要があり、基準は製造過程の実態が十分反映したものであり、その水準は品質管理の徹底を求める社会的要請に十分対応できるものであることを求め、その上で、製造過程管理高度化の目標、基準を示しています。
 目標としては、コーデックスガイドラインに沿ったHACCPか、HACCPの考え方を適用した品質管理によるもので、これに基づいて、建物、機械・装置、それらの運用体制の整備を行うことが明らかに示されていること。
 基準としては、施設整備の基準として、清浄度別の区画があり、清浄区域とその他の区域が原則として隔壁で仕切ることを求めています、しかし、仕切らなくても、二次汚染が防止できる方法がとられている場合は、仕切りがなくても良いと認めています。
また、原材料搬入から製品の保管・出荷までの過程が交差しないよう配置されるだけの広さがあることが必要である、としています。
 清浄区域は、清浄な空気が保たれるための施設があること。高度化を図るための機械・
装置が配置されていること。
運用体制の高度化を図るために、専門家チームを編成することが示されています。」
交差汚染防止のための工夫 
 高度化に関する基本方針は、“名ばかりマル総工場“のレベルアップを図る目的で出され
たものと思われます。
「また設備投資か」と頭を抱え「金は無いよ!」と諦めておられる人は、フーズデザイン
の加藤光夫氏が本誌08年6月号に発表された「HACCPは「箱もの」という大誤解」
を読まれることをお勧めします。例えば、「HACCPは施設設備といったハード的な
『モノ』ではなく方法、工夫で行う。」「HACCPは食品から危害を除去する場所を探
して見つけ、それを実施し、効果があったことを、測定して確認する方法だ。」  と述
べています。
また、氏は週刊マガジンHACCPの導入方法にも「HACCPは「箱物」という大誤解」
1〜4を掲載しています。
ご参考までに、1の大要をご紹介します。
 「増設を重ね、作業動線ゾーニングに多少問題があるので、交差汚染が無いように工夫をして運営をしている魚工場の社長が「HACCPをやろうとしている」という話をしたら、あるISOの認証機関の担当者が、「HACCPは箱物だから、出来ない、」つまり施設設備が出来ていないとHACCPは出来ない、と言ったと聞き驚いた。HACCPは、モノでは無く、方法だ。施設設備が古くても、危害が出ないように、清掃、洗浄、消毒、個人衛生、教育、ルール、といった「方法」で、危害が出ないようにすればよい。これが、一般的衛生管理を土台としたHACCPの構築だ。
 HACCPは、施設設備が古くても出来る。交差汚染の危険があったら、パーティションを置いたり、ビニールカーテンをしたり、従事者の通るルートを指定したり、原料資材の置き場を工夫して問題が起こらないようにすればいい。危害を従事者が工場内に入れないように、手洗いや粘着ローラーを使うようにもする。これらが一般的衛生管理だ。」
高度化も徹底した危害要因分析結果を拠り所に
「徹底したハザードアナリシスが効果的なHACCP計画を作る鍵となる。もし、ハザードアナリシスができていないので、HACCPシステムにおいてコントロールすべきハザードが明確にされなかったならば、計画は、たとえそれがどんなに完全に守られたとしても、効果的なものではないであろう。」
  
◆なお、食品と科学には、サントリー名工場の工場長として活躍され、工場改革を進め「eメールで進める工場改革」(日刊工業新聞社刊)の著書でも知られている水上喜久氏が定年を迎えてコンサルタントとして独立、食品と科学にも「ディズニーランドのような工場にしたい」をテーマに、豊かな体験に裏打ちされた、臨場感ある連載記事を書いておられます。本誌でぜひご覧ください。私もファンです。きっとお役に立つと思います。


◆リンク 食品安全ネットワークHP http://www.fu-san.jp/ 


食品と科学社(電話03-(3291)-2081FAX03(3233)0478)の月刊食品と科学2009年12月号に連載中のエグゼクティブ(経営幹部)への手紙( 34 ) の内容をご紹介します。
◆エグゼクティブ(経営幹部)への手紙(34)―認証取得後も変わらないのは何故?



 少し前のことですが「HACCP(マル総)の承認工場なのだが、現場従事者の意識や行動は承認前とあまり変わらない、どうしたものか」と悩みを打ち明けられました。
原因は物マネとコピー
 承認取得までの経過を伺い、「原因は物マネとコピー乱用です」と申し上げ、次のような話をしました。
「旧雪印乳業株式会社(以下会社)大阪工場が製造した加工乳でブドウ球菌食中毒が発生し、大きな社会的事件となったことは記憶に新しいことです。
当時大阪工場の衛生管理の実情は、残念なことに、マル総承認工場でありながら、ずさんでした。報道機関も厳しく批判しました。
会社は、大阪工場も含め、全国二十工場のマル総承認申請書を本社で一括作成し、当時の厚生省に申請していることが事件後の調査で判明しました。
2000年8月、大阪で行われたHACCPチームリーダー養成講座でも、『残念なことだが、会社が提出した二十工場の承認申請書の中身は“金太郎あめ”のようにほぼ同一であった。二十工場の内十工場には、HACCP委員会も組織されていなかった。』と、講師が、過去の“まる総”承認には反省すべき点があったと話されました。
HACCPシステムの出発点であり、工場ごとに実施すべき危害要因分析は、実施されず、審査も現場調査は省略されていました。当然のことながら、現場従事者は管理職も含め傍観者になってしまい、意識改革も生まれなかったと思われます。
少なくとも前記加工乳によるブドウ球菌食中毒事件発生以前は、HACCPの出発点でもある危害要因分析が個々の食品工場で行なわれることは無く、当時厚生省監修の名を付して出版された「HACCP:衛生管理計画作成と実践」等の解説本に記載された危害リストから関連する危害物質を抽出コピーしたもので申請書が作成されていたと推測されます。」と申し上げ、貴方の工場が申請された場合と似た点があるのではないでしょうか?と申し上げると、『やはり原点となる危害要因分析からやり直さないといけないように思います』と答えて帰られました。
HACCP講座米国版
1997年6月に大阪で開催されたテキサス農業工業大学動物科学部デイビー・B・グリフィン准教授等によるHACCPセミナー(Aセミナー)  同じく1997年9月にコーネル大学食品科学科ロバート・グラバニ教授等によるHACCPセミナー(Bセミナー) を受講しました。
セミナーでは、驚いたことに、食品現場にTV記者が潜入し、現場作業員の行動を密かに撮影したものを放映したことで、アメリカ社会に波紋を広げた問題の作品を会場で映写しました。
現場の隠し撮りを見せてからの講義と質疑が始まった時、これは“真剣勝負”だと、会場には緊張感が走り、参加者は、引き込まれるように講義を聴き、問題点や原因についても当事者の立場で考えました。
セミナーでの質疑応答
質疑応答で、参加者から「危害要因分析を行った工場のモデル例を示して欲しい」と要望が出されました、グリフィン助教授は、やや語気を強め、危害要因分析はあなた方の個々の工場で行うべきものであり、個々に行わなければ役に立ちません」と事例を示すことを断わりました。
セミナーでは、講師のグラバニ教授は、まず国際線の機内食による食中毒事例を詳細に説明しました。
 「旅客機は、成田からアンカレジを経てコペンハーゲン、そしてパリに到着。朝食はアンカレジ。朝食のハムを調理したシェフは手に火傷の傷があったのに、素手で200枚以上薄切りハムを作った。このハムは、90度Fの室温で6時間置かれ、その後50度Fのクーラー内に12時間保管され、350度Fで加熱調理したものが搭乗客に提供された。その結果、2時間30分後に192名の客と1名のスタッフが発病、原因はブドウ球菌が産生したエンテロトキシン(腸管毒)であった。これまでの食中毒防止対策は、従事者の教育訓練、チェックリストによる検査・点検、サンプルを抽出して細菌検査をすることで行われている、しかし、これでだけでは防止できない、予防に重点を置き、計画的に原材料から摂食までの全ての段階で予防策を講じる「HACCPシステムで対策を講じる必要がある。」と述べ、図を示して、経営者の合意、危害の認識、教育訓練、更に、食品の温度管理、洗浄と衛生管理、個人衛生、ペストコントロールをきちんと行うことがHACCP実施の前提条件であること」を強調しました。
危害分析と重要管理点原則と応用のガイドライン 
教材として配布されたガイドラインには、「HACCP計画の作成における予備的な作業として、まずHACCPチームを構成する。チームは食品の流通・意図する使用方法と対象となる消費者を記述し、プロセスを説明するフローダイアグラムを作成し、これを検証する。これらの予備的作業を終えた後に、チームは原則1の危害要因分析を行う。徹底したハザードアナリシスが効果的なHACCP計画を作る鍵となる。もし、ハザードアナリシスができていないので、HACCPシステムにおいてコントロールすべきハザードが明確にされなかったならば、計画は、たとえそれがどんなに完全に守られたとしても、効果的なものではないであろう。」と述べた。 
ガイドラインには、ハザードアナリシスを行う際に考慮すべき質問例が付録Cとして添付されていた。
A 原料
1. その食品は、微生物的ハザード(例えばSalmonella,Staphylococcus aurous)化学的ハザード(たとえばアフラトキシン抗生物質やペスティサイド残渣)あるいは物理的ハザード(たとえば石、ガラス、金属)につながる危険なことのある原料を含んでいるだろうか?
2. 使用水、氷そして蒸気がその食品の調製または取扱いの中に使われるであろうか?
3. 原料はどこから来たのか?(例えば、地理的な地域、特有の供給者)
B 固有のファクター
 加工前と後の食品の物理的特徴と組成(例えば、pH、酸性化剤のタイプ、発酵性炭水化物、水分活性、保存料)
1. もしその食品の組成がコントロールされていなかったら、どんなハザードが発生するだろうか?
2. その食品は、加工中に病原菌の生存もしくは増殖もしくは増殖、または毒素の生成を許すであろうか?
3. その食品は、その製造過程の次の段階で病原菌の生存あるいは増殖、または毒素の生成を許すであろうか?
4. 同じような製品が市場に出回っているだろうか?その製品の安全性の成績はどうか?今までどのようなハザードがその製品に関連したことがあるか?
C 加工に使われる方法
1. そのプロセスには病原菌を殺滅する、コントロール可能な加工のステップがあるだろうか? もしあるならばどの病原菌を殺滅できるのか? 栄養細胞と胞子の双方を考慮しなければならない。
2. その製品は、加工(例えば調理、低温殺菌)と包装の間に生物的、化学的あるいは物理的なハザードによる再汚染が起きやすいであろうか?
D 食物中の微生物
1. その食品は(どのような)微生物を(どれだけ)含んでいるか?
2. 喫食に先立って通常の時間保存されている間に微生物の数が変化するであろうか?
3. その微生物数の変化はその食品の安全性に影響を与えるであろうか?
4. 上記質問に対する答えが、ある生物学的ハザードが非常に起り易いことを示しているだろか?
E 工場のデザイン
1. その工場のレイアウトは、もし生の原材料を、そのまま食べる(ready-to‐eat; RET)食品から適切に分離することが食品の安全性にとって大切である場合には、それができているようになっているであろうか?もし適切な分離ができないならば、RTE食品を汚染する恐れのある物質としてどのようなハザードを考慮すべきであろうか?
2. 製品の包装を行う部署の空気は要圧になっているか?これは食品安全性にとって不可欠であろうか?
3. 作業員や移動装置の交通パターンは汚染の明らかな発生場所になってはいないか?
F 装置のデザインと使用法
1. その装置によって、食品の安全性に必要な時間/温度コントロールができるであろうか?
2. その装置は、加工される食物の量に対して適切なサイズであろうか?
3. その装置によって、作動状態の変動が安全な食品を製造するために必要な許容範囲にとどまるように十分なコントロールができるであろうか?
4. その装置は信頼できるものか、または頻繁に故障するものなのかどうか?
5. その装置は容易に清浄化、衛生化ができるようデザインされているか?
6. 危険な物質(例えばガラス)によって製品が汚染される機会があるだろうか?
7. 消費者の安全性を強化するためにどのような製品安全性を守るための機器装置が使われているか? 金属探知器、磁石、フルイ、フイルター、温度計、骨を除く装置、混入物検出器。
8. 装置の通常の磨滅が製品中に起こりうる物理的ハザード(例えば金属)の発生しやすさにどの程度影響があるか?
9. 異なる製品のために同じ装置を使う場合アレルギー源の混入を防止するためのプロトコールが必要か?
G 包装
1. この包装の方法は微生物病原体の増殖や毒素の形成に影響を与えるだろうか?
2. 安全性のために必要な場合には「要冷蔵」と包装に明確に表示されているか?
3. ユーザーによる取扱と調理のための説明が包装に表示されているか?
4. 包装材料は破損されにくく、従って微生物的汚染物質の侵入を阻止できるであろうか?
5. 不法開封が明白にわかる包装様式が使われているか?
6. すべての包装とケースに読み易い、正確な識別記号(コード)がついているか?
7. すべての包装に適切なラベルがついているか?
8. 材料中の、可能性があるアレルギー源となり得る物質がラベルにある材料組成のリストの中に挙げられているか?
H サニテーション
1. サニテーションが加工中の食品の安全性に影響があるか?
2. 施設と装置は食品を安全に取り扱えるように容易に清浄化、衛生化できるであろうか?
3. 食品が安全であることを保証するために、衛生的な状態を一貫して適切に保てるであろうか?
I 従業員の健康、衛生と教育
1. 従業員の健康または個人の衛生管理が加工中の食品の安全性に影響するか?
2. 従業員は、安全な食品の製造を確保するため彼らがコントロールすべきプロセスと要因を理解しているだろうか?
3. 従業員は食品の安全性に影響し得る問題を管理者に報告するだろうか?
J 包装から最終ユーザーに渡るまでの保管状態
1. その食品が不適切な温度で不当に保管される可能性はどのくらいあるか?
2. 不適切な保管方法が食品を微生物的に安全でなくするであろうか?
K 目的とする使用法
1. その食品は消費者によって加熱されるか?
2. 食べ残す可能性が多いか?
H 目的とする消費者
1. その食品は一般公衆向けか?
2. その食品は病気にかかり易い集団(例えば乳児、老齢者、虚弱体質、免疫不全者)によって摂取されることを意図しているのか?
3. その食品は、公共施設で提供されるのか、それとも家庭で使われるのか?」
ハザードの同定は、製造現場のHACCPチームで、(必要な場合は学識経験者の参加を得て)ブレーンストーミングも取り入れ、しっかりと討議して決め、文書化し情報を共有します。
その際、前記の質問に対応する形でハザードの同定を行えば、漏れのない同定が行えます。
ハザードの評価
同定が済めば、次は、評価へ進みます。
ガイドラインでは付録Dにハザードを同定し評価する際のハザードアナリシスの段階の使い方の例が示されました。
日米HACCPセミナーの違い
2000年12月に大阪で行われたHACCPチームリーダー養成講座には、全国から108名が参加し、3日間にわたって行われました。
 “アメリセミナー”の場合は、講師がアメリカの大学教授や日本の国立国際医療センター研究所長、全米食品製造業協会会長であったせいもあるのでしょうが、事例も交え、学術的に危害要因を分析し、なぜHACCP実施が必要なのかの認識、意識改革に重点が置かれていました。
日本の公式HACCPチームリーダー養成講座の場合は、講師が行政担当者、食品工場現場のリーダーで構成されていたため、まる総申請書作成のための実務研修会という印象を持ちました。
この違いが、「マル総の承認を取得したのに従事者の意識は変わらない」という嘆きにつながっているのではないでしょうか。
製造過程の高度化について
平成10年7月1日付厚生省・農林水産省告示第1号として告示された食品の製造過程の管理高度化に関する基本方針の第4次改正の内容が平成21年8月25日に告示されました。
告示は、高度化基準の作成についての基本的事項として、平成10年に制定された「食品の製造過程の高度化に関する臨時措置法の第4条で定められた高度化基準は、事業者の自主的な取り組みを基本に製造過程の実態に応じて作成されるべきものであり、製造過程高度化について専門的な知識を有する者を交え、十分な検討を行う必要があり、基準は製造過程の実態が十分反映したものであり、その水準は品質管理の徹底を求める社会的要請に十分対応できるものであることを求め、その上で、製造過程管理高度化の目標、基準を示しています。
 目標としては、コーデックスガイドラインに沿ったHACCPか、HACCPの考え方を適用した品質管理によるもので、これに基づいて、建物、機械・装置、それらの運用体制の整備を行うことが明らかに示されていること。
 基準としては、施設整備の基準として、清浄度別の区画があり、清浄区域とその他の区域が原則として隔壁で仕切ることを求めています、しかし、仕切らなくても、二次汚染が防止できる方法がとられている場合は、仕切りがなくても良いと認めています。
また、原材料搬入から製品の保管・出荷までの過程が交差しないよう配置されるだけの広さがあることが必要である、としています。
 清浄区域は、清浄な空気が保たれるための施設があること。高度化を図るための機械・
装置が配置されていること。
運用体制の高度化を図るために、専門家チームを編成することが示されています。」
交差汚染防止のための工夫 
 高度化に関する基本方針は、“名ばかりマル総工場“のレベルアップを図る目的で出され
たものと思われます。
「また設備投資か」と頭を抱え「金は無いよ!」と諦めておられる人は、フーズデザイン
の加藤光夫氏が本誌08年6月号に発表された「HACCPは「箱もの」という大誤解」
を読まれることをお勧めします。例えば、「HACCPは施設設備といったハード的な
『モノ』ではなく方法、工夫で行う。」「HACCPは食品から危害を除去する場所を探
して見つけ、それを実施し、効果があったことを、測定して確認する方法だ。」  と述
べています。
また、氏は週刊マガジンHACCPの導入方法にも「HACCPは「箱物」という大誤解」
1〜4を掲載しています。
ご参考までに、1の大要をご紹介します。
 「増設を重ね、作業動線ゾーニングに多少問題があるので、交差汚染が無いように工夫をして運営をしている魚工場の社長が「HACCPをやろうとしている」という話をしたら、あるISOの認証機関の担当者が、「HACCPは箱物だから、出来ない、」つまり施設設備が出来ていないとHACCPは出来ない、と言ったと聞き驚いた。HACCPは、モノでは無く、方法だ。施設設備が古くても、危害が出ないように、清掃、洗浄、消毒、個人衛生、教育、ルール、といった「方法」で、危害が出ないようにすればよい。これが、一般的衛生管理を土台としたHACCPの構築だ。
 HACCPは、施設設備が古くても出来る。交差汚染の危険があったら、パーティションを置いたり、ビニールカーテンをしたり、従事者の通るルートを指定したり、原料資材の置き場を工夫して問題が起こらないようにすればいい。危害を従事者が工場内に入れないように、手洗いや粘着ローラーを使うようにもする。これらが一般的衛生管理だ。」
高度化も徹底した危害要因分析結果を拠り所に
「徹底したハザードアナリシスが効果的なHACCP計画を作る鍵となる。もし、ハザードアナリシスができていないので、HACCPシステムにおいてコントロールすべきハザードが明確にされなかったならば、計画は、たとえそれがどんなに完全に守られたとしても、効果的なものではないであろう。」
  





◆なお、食品と科学には、サントリー名工場の工場長として活躍され、工場改革を進め「eメールで進める工場改革」(日刊工業新聞社刊)の著書でも知られている水上喜久氏が定年を迎えてコンサルタントとして独立、食品と科学にも「ディズニーランドのような工場にしたい」をテーマに、豊かな体験に裏打ちされた、臨場感ある連載記事を書いておられます。本誌でぜひご覧ください。私もファンです。きっとお役に立つと思います。


◆リンク 食品安全ネットワークHP http://www.fu-san.jp/