42食品安全を保障する体制づくり(6)

食品と科学 [食品企業の食品危害防止体制シリーズ]
05年06 月号「」ダイジェスト
食品企業の食品危害防止体制(21 )
食品安全を保障する体制づくり(6)
食品安全チームリーダーの力量と役割
猫西 一也

大阪市消費者センター所長・JST(人事院式監督者研修)指導者

前々号では

1. 総合衛生管理製造過程(マル総)承認制度は「制度導入で食品衛生管理者の設置は不要になる」で出発、形式化が進んだ。
2. マル総承認乳製品製造工場製品で集団食中毒事件が発生、食品衛生法は改正、食品等事業者の責務・食品衛生管理者設置と役割を規定。
3. ISO22000システム導入は、この反省を生かし「力量ある人」を核に受け入れの基礎固めをする。
4. 食品安全チームリーダーの組織上の位置と役割、食品安全チームの仕事、チームリーダーの統括力、役割、力量および、自らを磨くチームリーダー。
5. 検査室など“室勤務者”はピーターの法則に注意。

チームリーダーに任命されたら

個人としての行き方を充実させることが基礎

チームリーダーとしての力量を持つためには、まず、個人としての行き方を充実させることが基礎となる。
例えば、個人的にも、仕事の面でもあいまいな部分に光をあて、はっきりさせていく。
チームリーダーとしてやれるだろうかという不安なグレー部分が心を覆っているような時は悩まない。
そんな時は運動で体と頭をほぐす、風呂で汗を流し、好みなら酒も飲み、早く寝て、早く起きる。
きれいさっぱりした頭で、三食もしっかりと摂る。

身体に張りが出て、気分を一新したところで、受験勉強に精を出した学生時代に帰り、冷静にチームリーダーがすべき仕事を、ノートに書きこむ。本誌4月号で紹介した「食品安全チームリーダーの仕事」をたたき台にしてもいい。この作業は、リーダーの仕事が明るく展開していく様子をイメージしながらシナリオを書くように、書き込みをする。

例えば、食品安全会議の実施であれば、本誌05年1月号で紹介した図1「経営者・食品安全チームリーダー・営業部・製造部・品質管理部業務分掌」の自社版を作り、ノート上にメンバーを書き出してみる。
会議の案内文、プログラム、用意する資料、説明ビジュアル資料(プロジェクター、パソコン、映写幕、Power Pointソフト資料)司会の段取り、会議記録といったように、ノート上に書き出してみる。
会議の席のイラストも書くと、より具体的になる。

このような作業をしていると、リーダーとしての得意部門や不得意部門、特に学んだことの無い分野が明らかになる。不得意部門や学んだことの無い分野が明らかになったら、速やかに学び、自己補強をする。図 1
この講の後段で紹介している「ファシリテーションの技法」や本は、役に立つはずである。
力量作りというのは、このように前向きに展開することをイメージしながら自らを補強していくことである。
イギリスの王室研究所が100年の歴史を持つ公衆衛生監視員の仕事の内容を調査した。結論は「彼らの仕事の内容を決定したものは、業務規定ではなく『彼らの学習内容そのものであった』ということを大阪大学医学部公衆衛生学教室で関梯四郎教授から学んだ。

「学ばないことはできない」「学んだ内容が仕事の内容になる」この鉄則は、国や時代が変わっても変わらないと思う。

現状認識から方針決定へ

1.職場の現状を書いてみる、職場風土は、どうなのか?など率直に書く。
2.方針・計画決定のための図上演習を行なう。
リーダーとして進めたい方針と計画を仮説に「このように決めたら、どうなるか?」や、方針・計画の進め方や達成目標を書き出す。図 2 
3.方針・計画を決定する過程では、関連先のリーダーと率直な意見交流を行なう。この際のポイントは「志は高く、姿勢は低く」である。そして「負けない粘り強さ」で理解と協力を取り付ける。(勝つ必要はない)
戦略より執行力の時代
実現可能な目標と実現へのプログラムを示し、実現できた段階で、意欲的な最終目標を示す。
1冊の本Execution(執行力)が、中国人エグゼクティブの間で評判になっている。日本でも今や「執行力」は困難な時代を切り開くキーワードとなっている。

トップや管理職の仕事が、本部で戦略を画くから、現場で執行をリードする」に変わってきた。

戦略策定は台本にすぎない。1999年に日産の最高執行責任者に就任したカルロスゴーン氏は、着実に改革を執行した。この変革プログラムは、ゴーン氏着任以前に、すでに存在していたようである、ゴーン氏と前任者のと違いは、その変革プログラムを実行できたか、出来なかったかである。

執行力をつけるには、まず、実行可能な目標を掲げ、それを着実に実現したうえで、意欲的な最終目標を公言する、公言して実現してしまうことである。
 ISO22000の実現に当てはめると、まず、「今年中に食品衛生新5Sを現場に定着させよう」「まずは1S『職場の不用品のリストアップ』『不用品の処理基準の設定』を○月○日までに」と身近な目標と導入プログラムを示し、当面の目標実現に全力投球する。

幾つかの目標が実現した段階で、意欲的な目標「ISO22000導入し、定着させよう」と導入プログラムを示す。  
リーダーは演出力を磨こう。

部下への動機付け

食品安全マネジメントシステム実現を目標にしたプロジェクトチームの意義を動機づけに
食品安全マネジメントシステム実現の要となる食品安全チームの仕事は困難なことも多い、しかし、このプロジェクトチームの活動で、品質マネジメントシステムが実行され、顧客からも信用を得る成果が生まれた時、それを達成した充足感は大きい。
食品安全チームのスタッフや食品安全会議のメンバーには、品質安全確保の継続による企業信用獲得の達成感を共にしようと呼びかけ、動機付けをする。スタッフ一人一人に燃える心を点すことがチームリーダーの仕事の第1歩である。
ルーチンワークと言われる定型的な仕事をしてきた人には、身近で小さな課題を与えてチャレンジさせ、達成による充足感を体験させる。

スタッフは、木目細やかに、辛抱強く、しっかりと鍛える。
 
一歩後退二歩前進、自己批判から再出発―検査室と病院薬局には相似点が!
事例研究(他分野から学ぶ)

手作りで薬剤管理と服薬指導体制作り&5S実現

新しいシステムを導入するには、受け入れ基盤の整備が欠かせない、 基盤改革の出発点は現状を要因図で分析し“問題の問題”を認識することである。この中で、自らの職場の自己批判を行うことは重要で、これをないがしろにして進むことだけを考えると、改善は一進一退することになる。
筆者が1990年から95年まで携わった病院再生事業の中で、薬剤管理体制の改革は、
1. 当時はまだ珍しかったIT機能を装備した医薬品情報管理室を核にした患者への服薬指導の実施。
2. 医師・看護師に対する「医薬品安全管理情報」の提供。
3. 薬局薬剤師が病棟薬剤の一括管理を行い、入院患者への投薬・注射はすべて院内FAXで出された医師の処方箋を基に薬剤師が調剤のうえ病棟へ搬送し、看護師に手渡す、この際受け入れ看護師がチェックを行なう。
4. 入院患者への服薬指導は、薬剤師が、薬剤のカラーコピー、薬効、注意事項、副作用を記載したカードを患者に手渡して行なう。指導内容は、シールに記入してカルテに貼付し割り印を押す。
といった改善を行なった。
5. 薬剤師が直接管理することで、病棟における薬剤不良在庫(約300万円相当)を発見、返品可能なものは返品処理し資金を回収。
6. 副産物として「病棟薬剤管理5S」が実現された。管理体制を変えることで「5S」が実現したことは発見であった。
これらの内容は、病院薬剤師対象の全国情報誌編集社が取材に訪れ    図 3のように報道。また、大阪府医療保険所管課専門官は「見学病院にする」と述べた。

しかし、ここに至るまで5年を要した、当初の薬局体制は、薬剤師の意識も含め古いものであった。薬局改革は、まず、病院内における薬局に対する「低い評価はなぜ」を課題に石川ダイアグラム(特性要因図)図 4を作成し、問題の問題を明らかにした。そして最初の対策は、延べ38時間の「薬剤部員研修カリキュラム」を組むことであった。
病院再生のCI計画からパソコン実技、院内感染防止、新看護基準、人事・労務管理に至る研修を実施し、提出されたレポートに基づく個人研修も行なった。

薬局と食品工場室部門には共通性が
病院再生途上の薬局改革事例を紹介したのは、その後、食品工場活性化対策に係った際に、病院薬局と食品工場の品質管理室・研究室等の”室部門”で、共通する面があることを感じたからである。
「ISO22000が求める品質マネジメントシステム実行と維持」には“室部門”の技術者がマネジメント技能を身につけ、会社全体を動かす社長直轄部門で全社的リーダーシップを発揮することが求められることがあると思う。
ISO22000システムを導入することは工場の改革再生でもあるという認識に立ち、食品安全チームリーダーを中心に、全ての職場が、自らの職場の見直し点検を行なうことから始めて欲しい、一歩後退二歩前進、急がば回れである。

食品安全チームの位置は

食品安全チームリーダーは社長直属のスタッフ
プロジエクトチームは通常関連部署から選出されたスタッフで構成される。
任期を決めた専従形式か兼務の形で日常業務もこなすタイプかは別として、各部署から選ばれたスタッフで食品安全チームを構成し、全社的課題である「品質マネジメントシステムの実行と維持」を行なうこととなる。
食品安全チームのスタッフが、チームリーダーと、日常業務を行なう部署の長である製造部長、品質管理部長、営業部長双方から、異なった指示・命令を受けるようだと、スタッフは困ることになる。
また、スタッフの中には、出身部署を“実家”と意識するあまり、利益代表的意識が抜けず、プロジェクトチームのブレーキとなる人もいる。

プロジエクトチーム運営の現実は、複雑で難しい

ISO22000では、食品安全チームリーダーを社長直属のスタッフとすることを要求している。
経営者は形だけでなく、しっかりとした食品安全チームの位置づけと権限の委譲、責任分担を明確にしておかないと、チームはリーダーと所属の長の力関係で運営されることになる。その結果、スタッフは板ばさみとなり、目標達成は忘れられ、チームは承認のための飾り物となる。

業務の責任と分担

プロジェクトチームと日常業務の責任と分担と
アメリカの食品企業ヒル・トップミーツ社のSSOPは、
1. 製品製造中の工場内の衛生管理・従事者の管理指導責任は製造管理責任者が持つ。
2. 清掃・洗浄作業と清掃・洗浄作業従事者の管理と教育は衛生管理責任者が持つ。
3. 製造開始前の衛生点検・TPC検査の実施と、製造開始許可及び製造中に行なう検査はQC責任者が持つ。
4. QC責任者が点検・検査で不都合を認めた場合、製造管理責任者や衛生管理責任者に改善や従事者の再教育を指示する、必要な場合は製造を止めて不都合の原因を調査する。
などが規定されている。

チーム・ビルディング
集団からチームへ進化

各部署から人材を一つのプロジェクトチームとして集め、例えばISOシステムの学習を重ねながら、取得の目標、取得後の品質マネジメントのイメージを共有するといった手順を重ねながら、集団をチームに育てていくことは、基本中の基本である。
スタッフが、自分の出身部署や専門技術にこだわらず全社的視野で意見を交わすようになってきたら、集団がチームへ進化した証拠である。
しかし、現実には、そうはうまくいかない。所属部署あるいは所属していた部署の利益代表的感覚が抜けないスタッフ、対立的な意見ばかり述べるスタッフ、”学校出技術者”の発言には必ず反発する職人型スタッフ、その結果は「議して決せず」になる。進化するどこか会議やチーム運営がモラルを低下させる場になっていることすらある。
 これまで学んできたリーダーシップやチームワーク論では対応できない、ということが認識されはじめ、これ等を克服し、成果を上げる技法として、「ファシリテーションの技法」が注目を集めている。

会議は健全で賢明な運営を

リーダーはファシリテーション(人と人の相互作用を促進し、新しい考え・ビジョン・意欲を生み出す)ができる人
 森 時彦テラダイン(日本法人)代表取締役は「経営者にとってのファシリテーション」を表題に、大要次のように述べている。
1.会議はフェアに運営され、皆の意見を聴き公正な判断をする。
2.権限がある人に物怖じせずに意見が言える。
3.権限を使った押し付けはしない。
4.個人攻撃をしない。
5.互いに我を張る議論はしない、出たら皆で調整する。
6.参加者全員がファシリテーション的な意識を持ち、会議を盛り上げ、実らせる。
7.コンセンサスに止まらず、正しい意思決定をする。
8.議論の対立が生まれたら、石川ダイアグラムで、問題の問題を明らかにし、問題解決の道筋を明らかにする。
9立場の違う人、対立する人にも同じ目標へのゴールを意識させる。
10.QCサークル活動は、現場のファシリテーション活動であると認識し、日常活動と連携する。
11.後ろ向きの発言を、前向きな行動に変える、会議の仕切り技術を体得する。
12.目的を見失わず、スタッフが新しい発想を生み出すように、常に触発し、動機付けも行なう前向きで、エネルギッシュであること。
13.安心領域に安住しようとする人をチャレンジする緊張領域に引き出す。
14ファシリテーションの実践で、話を聴く力、質問力、多面的観察力を養う

ファシリテーションが日本企業で大ブレークする理由

チームに効力感を醸成
多様性の認識も
 黒田由貴子ピープルフォーカス・コンサルティング代表は、会議が健全に賢明に運営されることが第1なら第2はプロジェクトや会議の運営に参加しようという動機付けを生まれさせることである。
それは、チームのスタッフが、自分がやったことの効果が全体に反映されていると感じた時に生まれる。 この効力感をチーム全体に醸成することが大切である。
第3は、スタッフに多様性を認識させること、スタッフに自分とは異なる考え方をもつメンバーがいることを分からせること。
と、スタッフに「効果ありという」心の満足を感じさせ、さらに「多様性を認める心の広さ」を持たせることの大切さを述べている。
 また、フラン・リース著、黒田由貴子+P・Yインタナショナル訳「ファシリテータ型リーダーの時代」の前書きには「変革の時代のリーダーに必要なことは、組織や肩書きを超えて多様な人材と協力し、彼らの力を最大限に引き出すことなのだ。つまり、自立したプロフェショナルたちが、知恵や力を合わせてシナジー(相乗効果)を上げていく、これが本来のチームワークであり、それこそがファシリテーション・スキルのテーマなのである。」と、新しいチームワークのあり方を簡潔に示している。
 内容では、例えば第2部「ファシリテーションの基本スキル」では、第3章質問・発言・要約の技法―何をいうかー第4章話を聴く・表情・動作の技法―何をするかー第5章記録を取る技法―フリップチャートを利用するー第6章グループを読み取る技法―調整能力を身につけるー第7章コンセンサスを構築する技法―意思決定の基本プロセスー、と食品安全チームリーダーにとっては必須と思われる技法が具体例をあげ解説されている。
食品安全チームリーダーに限らず、職場のリーダーたろうとしている人にとってこの書は、先進的な技法を学ぶ格好の指南書のように思う。

参考文献

著者梅森幸一、「ビジネス基礎力向上計画ーワンランク上のプロを目指す」nikkeibp.Jp,日経BP社04.09.14
キャメルヤマモト(人材コンサルタント、「戦略より執行力の時代」朝日新聞、03.09.20。
谷島宣之ビズテック編集委員「経営の情識・『エンジニアこそ本流』7年後に分かった東京三菱トップの真意」l日経BP社04年08月08日

「てづくりで薬剤管理指導体制をつくりあげた」
Pharmacist Journal
1995年5月号、編集株式会社医薬情報センター、発行スミスクライン・ビーチャム製薬株式会社
[ Model of Standard Operating Procedure for Sanitation]The Federal Register Vol.61,No144,1996,7,26.
森 時彦、「経営者にとってのファシリテーション」取材川上慎市郎、nikkeibp.Jp,04.06.19
記事から抽出編集
黒田由貴子ピープルフォーカス・コンサルティング代表「今、ファシリテーションが日本企業で大ブレークする理由〔第2回)ビジネスイノベーター、日経BP社、04年04月06日

フラン・リース著、黒田由貴子+P・Yインターナショナル訳「ファシリテータ型リーダーの時代」プレジデント社04年5月刊。
 


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おしらせ
なお、食品と科学11月号「アンテナ」欄には、最近結成されました「食の信頼向上をめざす会」会長
唐木英明東京大学名誉教授へのインタビュー内容が掲載されています。
同会のホームページは、www.shoku-no-shinrai.org/ です。

また、「食品工場交流会事務局」(食品と科学社内 電話03-3291-2081)が会員を募集しています。
登録は無料です。
入会ご希望の方は、1.社名 2.事業所名 3.所在地 4.担当者の部署、氏名、連絡先、(電話、
ファックス番号、メールアドレス)5.主な製造品目を事務局までファックス(03-3233-0478)でお知らせください。

食品工場交流会のコーディネーターは、現在食品と科学の連載中の「ディズニーランドのような工場にしたい」
の執筆者水上喜久氏が担当されます。

水上喜久氏は、大手飲料会社の工場長を歴任され、そのうちH工場では、1日1メールを従業員に発信し、
2年余で数多くの見学者が訪れる工場に活性化された方です。

私は、水上氏の著書「Eメールで進める工場改革」(日刊工業新聞社)に感銘を受け、その要旨を当時食品と科学に連載中の
「食品企業の食品危害防止体22〜24」(2005年7月号から9月号)で紹介しました。

食品工場交流会に参加された方たちは、きっと、得難い貴重な知見を得られることと思います。
   E-mail : shokuhintokagaku@ybb.ne.jp

◆食品安全ネットワークHP http://www.fu-san.jp/ 
                             (猫西 一也)