*[経営幹部への手紙](15)“起こり得ないこと”が起きた原因

◆食品と化学社(電話03-3291-2081FAX03-3233-0478)の月刊食品と科学に連載しています、エグゼクティブ(経営幹部)への手紙の5月号の記事起こりえないことが起きた原因の内容をご紹介します。

*[経営幹部への手紙](15)“起こり得ないこと”が起きた原因 
ある会社の昼の給食で「ひじきと油揚げの油炒め」を食べた社員達が相次いで気分が悪くなり、嘔吐する人も出ました。保健所が調べたところ、 炒めた油は食用油ではなく機械油でした。
 「え、なんでぇ?」調理師たちも狐に化かされたような顔をしました。
調理した大釜の横に置かれていた二つの油の缶には「食用油」と印刷された大きなシールが張られていました。
一つの缶は空で、底に残っていた油は食用油でした。
 しかし、別の缶の中味はまぎれもない機械油でした。

 なぜこのようなことが起きたのでしょうか?

 調理従事者への聞き取り調査で次のようなことが判明しました。
 事件の2日ほど前に調理従事者のAが食品倉庫へ食材を取りに入りました。その際、真っ赤に錆びた18ℓ缶があるのを発見しました。Aは中身が漏れ出てはいけないと思い、傍にあった食用油の18ℓ缶へ移し替えました。移し替えの際、中身が機械油であることに気付き、移し替えた18ℓ缶を倉庫の外へ持ち出し廊下の端に置き、倉庫から目的の食材を調理場へ持ち帰りました。

 その後、廊下を通った調理主任Bが、廊下に食用油の缶が置かれているのを発見、「だらしがない」と怒りながらその缶を食品倉庫へ戻してしまいした。
 その一日後、調理場では午前10時頃から、調理師Cが大釜で昼食用の「ひじきと油揚げの油炒め」を調理していました。ところが調理途中で、使っている油缶に油が少ししか残っていないことに気付き、Cは調理助手のDに急いで食用油を倉庫から取ってくるよう指示しました。
 Cは倉庫で目に留った食用油の缶を引っ提げ、急ぎ調理師Cに手渡し、
 調理師は、その油缶の油を大釜に注ぎ炒め作業を続けました。
 ところで、その油缶には2日前にAが機械油を移し替え、倉庫の外に出し、それを知らないBが倉庫に入れたものでした。
 聞き取り調査の結果は以上の通りでした。

 ひじきを機械油で炒めるという“とんでもないこと”が起きた直接の原因は、Aが機械油を食用油の缶に移し替えたことでした。
 Aが缶に「機械油」と張り紙でもしていれば事故は防げたのでしょうが、忙しさの中で思いつかなかったのでしょう。
 もし、防げたとすれば、調理師が、調理材料を使う前に、自らの目や舌で必ず確かめる習慣を持っていた場合です。調理師Cが、Dが持ってきた油を大釜に注ぐ前に舌で確認していれば、事故は防げました。

 「食品工場の仕組み」「食品工場の品質管理」(同文館出版)の著者河岸宏和氏は「食品工場長の仕事とは」という表題で発行しているメールマガジン*「食品工場の工場長の仕事」で、官能検査について、大要次のように述べています。「ひき肉は見ただけで何の肉か畜種が分かります、もし見ただけで分からない時は、口に含んで食べて見ると分かります。ひき肉の色がおかしいな、牛肉のひき肉とは違うなと思えば、その場で生肉のまま口に入れます。口に入れることで間違いなく、牛肉ではないことが分かります」
「ハム工場で品質管理を行っていたときも常に原料の味を見て、色を見て、手で触って原料の良し悪しを判断していました。ミートホープ社の偽装が、仕入れていた工場で何年にも渡って、誰も気が付かなかったのは非常に不思議な事です」。
官能検査は、習熟すると河岸氏が取得したような、すばらしい鑑別力となります。
しかし習熟には熱意と努力が必要です。経営幹部が先頭に立ち、人材開発と育成に力を入れてほしいと思います。

 事件に戻ります。
機械油でひじきを炒めてしまった“真の原因”は何でしょうか? 経営幹部が食品倉庫に機械油の缶が置かれていることを見過ごしていたからです。
 食品倉庫には食材以外のものは置かせないこと、機械油や洗剤、殺虫剤といった類のものは、鍵付きの部屋や容器に入れ責任者が管理することを徹底することです。*http://www.mag2.com/m/0000100977.html

◆食品と科学5月号には、サントリーの榛名工場の衛生管理で見事な成果をおさめられた水上善久氏が定年後、コンサルタントとなり、「ディズニーランドのような工場にしたい」というテーマで連載を書いておられます、5月号はクリーンな工場(7)10分間清掃。臨場感のある、記事です。こちらの方も是非ご覧ください。きっとお役に立つと思います。

◆リンク 食品安全ネットワークHP http://www.fu-san.jp/  (猫西 一也)